ゲームとサッカーが大好きな小学4年生・斉藤隆宏君(仮名)。
毎週末、サッカー教室で思いっきりプレーに興じる隆宏君も、3年前の小学1年生の時、「急性リンパ性白血病」という大病を発症する。ご両親にとっても、まさに青天の霹靂だった。
聞き手:五十嵐圭介(医療ライター)
小学1年の夏休み前、隆宏君は溶血性連鎖球菌(溶連菌)に感染し、高熱を発した。溶連菌によるかぜ様の感染症は、決してめずらしいことではない。主にのどに感染して咽頭炎や扁桃炎を引き起こす、感染症の中では比較的症例の多い病気である。
ただ、溶連菌による感染症はたびたび長い期間の高熱を伴う。隆宏君は、感染症の治療のため1週間ほど入院することになった。
しかし、入院中の血液検査の結果、ご両親にとって思いも寄らないことに、隆宏君の血液中から「芽球(がきゅう)」が発見される。芽球とは幼若な血液細胞のことで、通常、健康人の血液中には観察されない細胞である。血液検査によって芽球が見つかるということは、ほぼ白血病が疑われるときのみといっていい。
その後、引き続き行った骨髄検査において、明確に急性リンパ性白血病であることが判明する。隆宏君は白血病の治療のため、直ちに地元・栃木県のJ大学に入院することになった。結果的に、入院期間は1年にも及んだ。
隆宏君の入院後、「正直、その時は無事に病院を出られるかとても不安だった」と回想されるお母様。隆宏君の約1年間に及ぶ入院期間中、お母様は一日も欠かすことなく毎日病院に通って隆宏君を看病し、夜に隆宏君が就寝したら帰宅、そして夜が明けたらまた病院に通う、という生活の繰り返しだった。そんな気丈なお母様も、隆宏君の入院後1ヶ月間は、病院への往復以外はほとんど引きこもり状態だったという。
「本当に治るんだろうか、という思いがどこかにあって、気分もかなり沈んでいました。でもよくよく調べてみると、これは治る病気だということがわかって一気に気持ちが明るくなったことを覚えています」
そうなのだ。小児期に発症する急性リンパ性白血病は、小児の白血病・悪性リンパ腫の7割を占めるといわれている。しかし、医療技術の発達と地道な研究努力の結果、今では化学療法によって多くの場合は寛解(病勢が衰えること)し、それも長期にわたって継続することまでわかっている。長期にわたる寛解、すなわち治癒と表現しても差し支えない状態まで回復するのである。
(→「病の現場から(研究者篇)」にて詳述)
1年間の入院治療の後、さらに2年間続いた通院。長くつらい闘病生活だったに違いないが、隆宏君の表情はいつも明るい。今夢中になっていることは?と隆宏君に水を向けてみると、間髪入れずに「ゲーム!あとサッカー!」と返ってきた。長い闘病生活の末、病気を克服した隆宏君は、もうどこから見ても元気そのものの小学4年生である。
「急性リンパ性白血病は、ほんの一昔前まで不治の病といわれていましたし、私たちも最初はそう思って一時は悲嘆に暮れました。でも、現在では完治も可能な病気ともいわれているそうです。もし万一再発するようなことがあっても、将来さらに研究が進歩して、より完治に近づくことができるかもしれません」
「同じ境遇のお子さんがいらっしゃる親御さんも、最初はきっとこの事実をご存じないと思います。知らないから悲観してしまう。ぜひ知って希望を持っていただきたいと思っています」
隆宏君を見つめながら、優しく強い大人になってほしい、と笑みを見せるお母様。その視線の先には、確かに大きな希望がある、と確信した。