
日本医科大学付属病院 血液内科 講師 永田安伸先生は、「抗アポトーシス分子スイッチングの分子機序解明によるBCL-2阻害薬抵抗性白血病の克服」を研究テーマとして令和6年度日本白血病研究基金の荻村孝特別研究賞を受賞されました。
AMLに対する分子標的薬は長らく限られていましたが、近年VENが実用化され、治療成績は着実に向上しました。永田先生らが日本医科大学関連施設で約200例を解析したところ、およそ7割の患者さんでは良好な効果が得られる一方で、残る約3割の患者さんでは十分な治療効果が得られないことが見えてきました。さらに、いったん効果が得られても、治療の経過中に再び効きにくくなる例もあり、根治につなげるにはまだ越えるべき壁が残されています。
本研究は、この“届かなかった3割”に何が起きているのかを突き止め、その解決策を見出すことを目的としています。
白血病細胞は、本来起こるべき細胞死(アポトーシス)を巧みに回避して生き延びています。その“生存スイッチ”の役割を担うのがBCL-2という分子です。VENはこのBCL-2を阻害することで白血病細胞の生存を断ち、治療効果を発揮します。
ところが白血病細胞は非常にしたたかで、治療の圧力を受けると、生存スイッチをBCL-2以外の分子へ切り替える(スイッチング)ことがあります。具体的には、BCL-2依存からMCL-1やBCL-xL依存へと移行することで、VENの効果をすり抜け、再び増殖の足がかりを得てしまう可能性が明らかになってきました。
この“スイッチング”がなぜ、どのように起きるのかを分子レベルで解明するため、永田先生らは次世代シーケンサーなどの最新技術を駆使し、主に以下の点を精査しています。
1.どのような細胞が、どのような条件でスイッチングを起こすのか
2.スイッチングが起こりやすい患者さんを、治療前に予測できないか
この研究のために、多くの患者さんから、治療前・治療中(効果が得られている時期)・再発時などの血液や骨髄検体をご提供いただいています。
これまでの解析から、スイッチングに関与する候補分子がいくつか浮かび上がってきています。今後は、培養細胞や実験動物を用いてその分子の機能を検証し、スイッチングとの因果関係を一つひとつ丁寧に確かめていく予定です。
そしてその先には、スイッチングを未然に防ぐ併用療法の開発があります。より効果的で副作用の少ない個別化医療の実現――それが永田先生の目指すゴールです。
このたび、最高賞である荻村孝特別研究賞をいただき、身に余る光栄です。この受賞は、研究者としての責任の重さを改めて胸に刻むとともに、研究をさらに一歩前へ進めるための大きな力となります。
本研究は、何よりも患者さんとご家族の皆様のご理解とご協力があって初めて成り立つものです。貴重な検体をご提供くださった皆様お一人おひとりに、心より御礼申し上げます。また、日々ともに歩んでくださる共同研究者・医療スタッフの皆様の献身なくして、この研究は前に進みません。深く感謝いたします。
そして、日本白血病研究基金を育んでくださっている市民の皆様。皆様のご支援は、研究者にとって何よりも心強い後押しです。いただいたご厚意を必ず研究成果という形でお返しできるよう、全力を尽くしてまいります。心より感謝申し上げます。