清谷 知賀子 先生は、「東京小児がん研究グループ(TCCSG)における小児がん長期フォローアップのための小児がんサバイバー・コホート作成とデータベース構築」を研究テーマとして、平成31年度日本白血病研究基金「毎日賞」を授与されました。 毎⽇賞とは公益財団法⼈ 毎⽇新聞東京社会事業団様が、推進しているキャンペーン「⽣きる」に寄せられた、⼩児がんや難病の⼦どもの⽀援・治療研究の⽀援を⽬的としたミュージシャン、芸術家、市⺠から寄せられた「⼩児がん征圧募⾦」からのご寄付を原資とし、日本白血病研究基金の小児領域特別研究賞として平成30年に設⽴されました。
聴き手:小川 公明 (NPO法人 白血病研究基金を育てる会)
東京小児がん研究グループ(TCCSG)は、1970年代に設立された歴史あるグループです。現在は、小児がん治療施設の集約化の結果、施設数は減りましたが、現在も関東甲の60余病院が参加しています。 これらの施設で、日本全体の小児がん診療の相当数をカバーしていると思います。
これまでも、自施設でのデータ蓄積は、行っていましたが、TCCSGコホート研究は参加施設が連携して行うこと重要ですのでTCCSG長期フォローアップ委員会を中心に参加病院のご協力を頂くことにしました。今回のコホート研究は、TCCSG参加施設で行いますが、将来全国レベルへの研究拡大にも対応可能なようにシステムを構築しました。
欧米では小児がん治療後の長期フォローアップが確立していて、成人後にも健康状態の調査や検査が詳しく行われ、治療後に起こりえる様々な問題や健康管理について、膨大な研究がなされています。しかし日本ではそのような仕組みがないので、果たして日本人でもそれがあてはまるのかどうかがわかりません。小児がん長期サバイバーの場合、心臓に影響のある投薬を受けた方には心エコー、頭部への放射線を受けられた方には頭部MRIなどの検診が必要ですし、高血圧、糖尿病、高脂血症などの成人病についても、20代、30代のうちから気を付けられれば早めに対処できるのですが、一般の健康診断では足りないことが多いと思っています。また情報が集積されなければ問題点がわかりません。コホート研究には非常に長い時間がかかりますが、本研究で、小児がんサバイバーの健康管理上の問題点の抽出と、推奨される検査内容等について明確にし、将来の社会的合意を作っていきたいと思っています。
現在の日本では、沢山のがんサバイバーの方々が、幅広く社会で活躍しておられます。少しでも長く活躍して頂くために、個々人に適した健康診断やフォローアップの体制を作ることが日本社会にとても大切なことだと思います。
今回のコホート研究では、現在から将来までのデータ蓄積のため、小児科を退院して、成人された元患者さん(長期サバイバー)の現在の健康状態の把握や、治療当時の病院に投与薬剤の種類、投与量、移植の種類、年齢等の情報を登録いただきます。また、小児科だけで追いきれない場合も多いですので、元患者さんご本人にも定期的に健康状態のアンケートをウエブ調査でして頂くことが大きな特徴です。登録施設の成人診療科や内分泌科、循環器科などにもご協力いただいて、医療側からも健康状態の情報を蓄積できるようにしたいと思っています。つまり、現在から未来を追いかけるのと同時に 過去の治療が現在どのような健康上の影響を与えるかを把握することが重要と考えております。
今後長期間にわたりますが研究を継続し、晩期合併症の発症前に予兆をつかむ方法を明らかにし、小児がんサバイバーの健康管理に活用したいと考えております。本研究の準備はすでに整い、10月3日よりウェブ登録システムでの研究を開始することが出来ました。
今回の受賞により研究としての社会的信頼が裏付けされたため、参加病院内での倫理審査等も順調に進めることが出来ました。小児コホート研究の重要性をご理解下さり、受賞させて頂いた事を心より感謝しています。
日本白血病研究基金と毎日新聞社会事業団「⼩児がん征圧募⾦」の設立の想いや歴史を伺い、長期に渡り市民や白血病患者遺族が、私たち研究者をご支援下さっていた事を知り、素晴らしい想いが詰まっていることに熱い感銘をうけました。