東京都西東京市在住の故井手幸子様は大手運送会社に定年まで勤務されました。この間に祖父母の看取り、ご両親の看護、看取りをされて、ご結婚はされなかったので独り身となってしまいましたが、趣味の写真を通じて仲間にも恵まれ、充実した日々を過ごしていました。
しかし、2018年に87歳で患った急性白血病の進行は早く、日常生活を送る事が困難な状態になりました。ご家族がいないことから、行政から成年後見人などをされている行政書士の山﨑節子様に面倒を観てくれないかとの打診があったのは同年11月でした。
その月の後半に井手様の主治医より山崎様に連絡があり「年末までは持ちませんので早く決断してほしい、最後まで看取ってほしい。」との要望があったため、直ちに井手様にお会いし、主治医から急性白血病の告知を受けました。余命わずかな事を知った井手様は悲しまれ、無念な気持ちになられたようです。しかし、現実の問題として、逝去後の財産をいかに扱うかは、生前中に決めなければなりません。ご家族のいない井手様の場合、医療費など必要経費を除いた資産をいかにするかを決める必要がありました。相続するご家族がおりませんので国庫に収めることもできます。しかし、山崎様は井手様の生きた証、白血病との闘病の想いを活かせる方法は無いものかと考えました。白血病をインターネットで検索したとところ、白血病撲滅をめざし、研究を助成している日本白血病研究基金のホームページを目にしました。「この団体だったら、白血病撲滅の活動の中に、井手様の生きた証を残せるだろう、有効に活用されるだろう。」と考え、遺言書に「残った資産は、白血病研究基金を育てる会に遺贈する。」として公証役場に持参し、遺言書として確定させ、山﨑様は遺言執行者になりました。手続きが終わって間もなく2018年12月26日に井手様は逝去されました。
山﨑様は終始井手様に寄り添い、想いを伺い、看取りました。葬儀も、納骨も山崎様が執り行いました。経費精算が終了した時点で2000万円残りましたので、この全額は、白血病研究基金を育てる会経由で日本白血病研究基金に遺贈されました。
この井手様の生きた証としての貴重なご寄付をいかに活用するかを日本白血病研究基金運営委員会で議論の結果、井手様のお孫様位の世代である、若手奨励賞の特別賞として井手賞を設けることになりました。
今後、井手賞を受賞するであろう若き研究者は、故井手幸子様が白血病と闘い、遺された「生きた証」としての「一般研究費 井手賞」を、亡き患者の想いとして受け止め、一日も早い白血病撲滅に向かってご尽力いただきたいと願っております。
山﨑節子様
左から、
・水谷修紀運営委員長(東京医科歯科大学名誉教授)
・山﨑節子様
・堀部敬三運営委員(名古屋医療センター臨床研究センター長)