受賞者からの声│東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科部長 湯坐有希先生2019/05/28

小児の白血病は、かなりの確実で治癒できる病気になってきました。しかし、まだすべての小児が治癒できるわけではありません。治癒後でも、その子の将来人生において健康を維持し続けてほしいと願い、そのための研究を続ける小児科医が受賞者であることに喜びを感じました。

東京都立小児総合 医療センター 血液・腫瘍科 部長 湯坐 有希先生は、「新規診断小児・AYA世代急性前骨髄球性白血病における化学療法剤減量を目指した第Ⅱ相国際共同臨床試験(AML-P17)」を研究テーマとして、日本小児血液・がん学会より推薦を頂き、日本白血病研究基金運営委員会において審査の上、平成30年度「臨床医学特別賞」を授与されました。

聴き手:小川 公明 (NPO法人 白血病研究基金を育てる会)

―受賞テーマについて解説頂いたー

小児のがんは日本では2000人から2500人/年、そのうち白血病は1/3で700~800人/年、このうち大部分が急性リンパ性白血病(ALL:Acute Lymphocytic Leukemia)ですが、今回研究テーマとした急性前骨髄球性白血病(APL:Acute Promyelocytic Leukemia)は、10~15人/年程度の稀少がんであるため、多施設より、今後4年くらい患者登録頂き、その後3年程度追跡する計画です。
現在の標準的治療は抗がん剤+ビタミンAの誘導体(ATRA:all-trans Retinoic Acid)が非常に効果的であり、85%位の患者さんは治癒される。しかし、抗がん剤の副作用の心筋毒性などにより、治療中に亡くなってしまう患者さんも存在する、また、二次がん誘発などの晩期合併症の心配があります。
このため、ビタミンAの誘導体(ATRA)+三酸化ヒ素(ATO:Arsenic Trioxide)を基本とした治療にすることで、抗がん剤投与をやめる(あるいは減量する)ことにより、治療率の向上、および晩期合併症予防を目的にしたテーマです。
臨床試験としては国内、遺伝学的研究など基礎的な部分でシンガポールの研究者と行う国際共同研究です。

―抗がん剤を使用しなくても治療できるのですかー

ビタミンAの誘導体(ATRA)は、他の抗白血病薬のような強い毒性もなく、そのため感染症や血小板減少による出血などの合併症や患者さんに与える苦痛も少なく、結果として医療費も少なくなるという利点もあります。
その作用機序は、前骨髄球が「がん化」させず、そのまま成熟し正常な白血球となり、やがて白血球の寿命が尽きて消えていくことにより、治療する方法です。
ヒ素(三酸化ヒ素:ATO)は怖いと思われがちですが、低用量を治療として使用いる限りで、抗がん剤のような副作用は圧倒的に少ないです。それでも、不整脈の発症や、カルシュム等のミネラルバランスが悪くなる場合が知られていますが、対処方法は簡単であり臨床的には問題になりません。作用機序は、先ほどのATRAとほぼ同じです。
上記二剤を併用することにより、腫瘍細胞をなくすことができるため、晩期合併症等の憂いを有する抗がん剤をあえて使用しないことによって、より安全に治療でき、より健康な人生を送れることが可能であると考えています。

―晩期合併症予防の重要性ー

APLは、現在、85%位の患者さんが治癒されている。今回の研究は90%以上の治癒を目指しています。
小児のその後の人生は非常に長く、60年、70年は生きていくことになるので、将来の人生を考えた治療が必要です。小児科医としては、その子の将来に憂いを残さない治療、つまり治療による晩期合併症を最小化することが非常に必要と考えており、そのためには強い治療や、あえて弱い治療等、様々な治療選択肢を豊富に準備しておくことが重要だと考えております。

―感謝の気持ちー

この研究は非常に費用が掛かります。 そのために国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)や都立病院からの特別研究費を準備していましたが足りませんでした。今回、日本白血病研究基金から、研究助成金を頂いたことでようやく開始できた状況で、非常にありがたいことだと思っております。
日本白血病研究基金の歴史を伺いました、市民が長期に渡り、私たち研究者をご支援下さっていた事を知り、非常に素晴らしい想いが詰まっていることに感激しました。

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