受賞者からの声│がん・感染症センター都立駒込病院 名島悠峰先生2015/11/25

がん・感染症センター都立駒込病院  名島  悠峰 先生は、2014年度日本白血病研究基金臨床医学特別賞(日本血液学会推薦)を授賞されました。テーマは「HLA ClassⅠ 遺伝子導入NOD/SCID/IL-2RgKO(HLA ClassⅠTgNSG)マウスを用いた異種移植モデルによるWT1抗原に対するヒト免疫応答の評価」です。 名島  悠峰 先生より日本白血病研究基金を支えて下さる皆様に対するお気持と研究テーマの概要を頂きましたので掲載致します。

このような患者さんとそのご家族の思いのこめられた賞を賜り、関係者の方々と支援者の皆様に心より御礼申し上げます。また、本研究は理化学研究所統合生命医科学研究センター石川文彦先生の研究室にて実施させて頂きました。スタッフの皆様及び共同研究者の方々にこの場を借りて深謝致します。現在は臨床現場に戻って難治性血液腫瘍の診療に専従しておりますが、微力ながら研究と臨床とを橋渡しして治療成績向上につなげられるよう精進致します。以下研究の要旨を記載致します。

白血病に対する同種移植の成績が示すように、がん免疫療法は悪性腫瘍を根治する可能性をもちます。免疫の研究には通常マウスを用いますが、ヒトとの違いは大きく、臨床応用の段階で思わぬ効果や副作用が出る可能性があり、直接ヒトの細胞を用いた研究が出来ればより有用と考えられます。我々は、NOD/SCID/IL2RgKO(NSG)マウスという高度免疫不全マウスにヒトの造血幹細胞を移植し、マウスの体内にヒトの免疫細胞を作らせる、異種移植モデルの研究を行っています。 癌細胞を含めてヒトの細胞は、HLAという器の上に、免疫応答を引き起こす様々なタンパク質の断片(抗原ペプチド)を載せて、目印として提示しています。癌免疫の主体を担う細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、細胞表面のT細胞受容体(TCR)により、この目印を認識して癌細胞を攻撃します。しかし、従来の異種移植モデルではヒトCTLがHLAを持たないマウス体内で作られるため、このHLAとペプチドの目印による抗原認識(HLA拘束性)が認められませんでした。

そこで、日本人に頻度の高いHLA(HLA-A2またはA24)を発現させたNSGマウス(HLA Class I Tg NSG)に、臍帯血由来の造血幹細胞を移植した異種移植モデルを用い、免疫療法の評価を試みました。白血病の臨床試験で使われる、WT1ペプチドワクチンをこのマウスへ投与すると、WT1抗原を認識するヒトCTLがマウス体内で誘導され、ワクチンの効果を確認できました。ワクチンとは異なり、養子免疫療法はCTLを体外で増やして患者さんに投与する方法です。その一手法として、癌抗原に対するTCRを遺伝子導入して癌細胞を認識可能となった末梢血のCTLを、体外で増やす方法が期待されています。しかし、末梢血由来であるため長期の培養が難しいことなどが課題とされます。そこで、この異種移植モデルを用い、TCRを末梢血ではなく造血幹細胞に発現させる手法を評価しました。臍帯血由来の造血幹細胞にWT1特異的TCRを遺伝子導入し、HLA Class I Tg NSGマウスへ移植すると、マウス体内でWT1抗原を認識するヒトCTLが分化して長期間体内に存在し、体外でも培養できました。このCTLを皮下に腫瘍をもつマウスへ投与し、体内での腫瘍縮小効果も確認できました。

以上のように、この異種移植モデルにより、マウス体内でWT1抗原を用いたヒト免疫療法を評価出来ました。今後様々な癌抗原によるワクチンの評価や新たな免疫療法開発の一助となれば幸いです。

がん・感染症センター都立駒込病院  名島  悠峰


日本血液学会赤司理事長(右)と名島  悠峰 先生(左)

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