*東海大学総合医学研究所 教授(当時、その後2003年より東海大学医学部教授)の加藤 俊一 先生は「白血病に対する臍帯血移植の治療成績改善のための基礎的研究」をテーマとして、平成1 4 年度の日本白血病研究基金荻村孝特別研究賞を受賞された。 加藤先生は、日本で最初の臍帯血移植(血縁間)に成功され、そのご、非血縁者からの臍帯血移植を目的とした臍帯血バンクの設立にご尽力され、日本さい帯血バンクネットワークの会長も務められました。*
聴き手:小川 公明 (NPO法人 白血病研究基金を育てる会)
当時、臍帯血移植は、保存細胞数の制約から体重の軽い小児を対象に運用されていましたが、保存細胞数の多い臍帯血については、成人への応用も検討されだした時代でした。
臍帯血移植をより適切に、またより幅広い年齢層に、普及させるためは、必要細胞数や、複数臍帯血の移植、抗HLA抗体の影響など、様々な基礎的研究が必要と考えていました。
日本白血病研究基金から頂いた研究助成金は、これらの基礎的な研究や、臍帯血バンクのシステム確立に使わせていただきました。 ちょうど良い時期に荻村孝特別研究賞を受賞出来、非常に助かったとの記憶が残っています、この場をお借りして心より感謝申し上げます。
1999年8月、厚生省(当時)により全国の8つの臍帯血バンクで構成される日本さい帯血バンクネットワークが設立され、小児科領域を中心に非血縁臍帯血移植が可能になりました。 その後、成人でも臍帯血移植が試みられ2003年頃には成人での臍帯血移植が普及したため日本での実績が急増しました。 今では累計が1万例を越し、世界最多となっており、全世界での臍帯血移植の1/3を日本が占めています。 移植に必要な細胞数は体重に比例して決められているため、欧米人より比較的小柄な日本人は、必要細胞数が少なくて済むことが、臍帯血移植で有利に働いていると言えます。
臍帯血移植は、骨髄移植と異なり、HLAのミスマッチの影響を受けにくいため、日本人の9割以上の患者さんに移植可能な臍帯血が見つかります。 そのため移植が必要と判断された場合、移植に適切な時期を逃さず直ちに移植が出来ることは、最大の強みです。
また、移植後のGVHDが少ない等の利点があります。
しかし、細胞数が少ない場合、生着が遅れる、生着しない等の欠点もありますが、全国の臍帯血バンクが、細胞数がより多い臍帯血を集める努力の結果、今では骨髄移植と遜色ない成績が得られるようになってきました。
造血細胞移植を考える場合、臍帯血移植を第一選択肢と考える先生方も多くなりました。
受賞テーマである基礎的研究で明らかになってきたことですが、患者さんが妊娠や輸血によって抗HLA抗体を保有している場合、特に移植しようとする臍帯血のHLAに対する特異性を有する場合、生着に不利に働く事が分かってきました。 このため平成24年より、臍帯血移植を実施する場合、抗HLA抗体検査が保険適用になり、より適切な臍帯血移植が可能になりました。
臍帯血は、豊富な造血幹細胞を含むため造血幹細胞移植には既に活用されています。
さらに、臍帯血には、骨や神経や血管になりうる間葉系の幹細胞も含むことが明らかになり、再生医療の観点からは無限の広がりが期待できます。
臍帯血バンクは日本の国民・社会が作り上げた未来を照らす宝箱だと思っています。
*不治の病だった白血病が治す事が出来るようになった背景には、加藤俊一先生のように白血病撲滅に向かう強く暖かい思いの研究者魂の存在があったのだと実感した。*
臍帯血移植20周年記念国際シンポジウム(仏:カンヌ)で活躍される加藤俊一先生(最前列中央)
臍帯血移植20周年記念国際シンポジウム(仏:カンヌ)主要参加メンバーの加藤俊一先生